インタビュー

2023.05.17

グッドデザイン賞を受賞した、施工管理や大工さんの業務生産性を最大化する自社開発アプリ『Architect Jump』の誕生秘話

木造建築の現場では、大工さんをはじめ、様々なパートナー企業(工事会社)の職人さんと連携しながら、施工管理がプロジェクト全体をマネジメントしています。そんな施工管理の業務のムリ・ムラ・ムダを撤廃し、工事の円滑な進行をサポートするため、オープンハウス・アーキテクトでは『Architect Jump』を自社開発しました。

電話や紙といったアナログ管理からペーパーレスで効率的な働き方を実現、また、生産性向上に繋げる取り組みや、現場監督・大工さん・パートナー企業それぞれの視点から便利な機能を備えたUIデザインが高く評価され、2022年のグッドデザイン賞を受賞しました。

この画期的なアプリを手がけたのがDX推進部の田中さん。アプリの概要や企画からローンチまでの道のり、開発に込めた思いを聞きました。

Cast

出演者紹介

  • DX推進部 課長

    田中 健次

    大手銀行系システム会社から2020年に転職。『Architect Jump』のプロジェクトでは立ち上げから関わる。最近では営業活動をサポートするアプリを導入するなど、幅広い業務を担う。趣味はギターと旅行。現地に行かなければ知り得ないモノを発見することが楽しみ。

「現場の今」を持ち運べるアプリ『Architect Jump』とは?

──『Architect Jump』の開発にいたる背景や目的を教えてください。

田中:入社したばかりの頃、「工事部を客観的に見て課題があれば挙げてほしい」という、かなりざっくりした依頼が経営層からありました。

弊社には工程管理から営業の契約管理、本部のサポート業務まで一元管理できる『KIZUNA-X』という基幹システムがありますが、その開発当時より会社の規模や案件数、社員数も急激に増えていますし、『KIZUNA-X』は逆に機能が多過ぎて現場監督がどのタイミングでどの機能を使えばいいのかわかりづらい一面がありました。

また、工程表のスタイルや情報共有の方法も現場監督によって様々で、そのことによる工程のジョイントロスが発生していました。そこで、現場監督の業務を一元化できるアプリを作ってムリ・ムダ・ムラをなくし、合理化・最適化しようと考えました。平均工期を10日削減することを目標に、プロジェクトを立ち上げることとなりました。

──壮大な計画ですね!合理化・最適化するために、アプリにはどんな機能を持たせたのですか?

田中:『Architect Jump』のコンセプトは「現場の今を持ち運べるアプリ」です。大きく分けて、①最新の工程表、現場資料をリアルタイムで共有できる ②業者・大工と円滑にコミュニケーションを取ることができる ③パートナー業者・大工職人から作業完了の連絡を受け取ることができる ④大工EDI化による請求書作成業務の負担軽減、という4つの軸で必要な機能を考えました。

例えば、工程表は全体が見やすく、また編集しやすくするため、リスト形式ではなくバーチャート形式を採用しています。現場監督が日付や期間を変更すると自動的に反映されて関係者に通知が届き、リアルタイムで情報共有できます。

逆に、大工さんや職人さんからも作業報告ができる機能があり、工事が完了した現場はグレー、予定より遅延している現場は赤というように状況のステータスが表示されるので、工事の進捗状況が一目瞭然でわかります。また、その工事に関わる全員が閲覧・書き込みできるチャット機能もあるので、現場監督は連絡事項や注意喚起などを一斉配信できます。

パートナーさんの視点から言えば、図面や工程表などの資料を持ち歩かなくてもスマホかタブレットさえあれば確認できますし、画像共有もできます。現場で撮った写真は自動的にクラウドに蓄積され、作業完了時の報告書もその写真をポチポチ選んで簡単に作成できるように工夫しました。

大工さんについては、紙でやり取りしていた請求書を電子化し、契約内容や今月の請求・お支払い金額などもわかるようにすることで負担を軽減しています。全国の大工さんの平均年齢は65歳と言われていますので、高齢の方やITリテラシーがあまりない方でもわかりやすいデザインにはかなりこだわりました。

例えば、ボタンの色や文言をわかりやすく統一し、トップページだけ、ワンクリックだけで完結できるようにしました。また、パスワードを忘れてログインできないといったトラブルを防ぐため、基本的にログインしっ放しで使用できる状態にしています。

約3ヶ月で100現場を回って、徹底的にヒアリングを実施。答えは現場にありました

──ユーザー視点で考え抜かれていて、UIもすごくわかりやすいですね。他業界から転職して間もなく、ここまで革新的で完成度の高いアプリを作るのは大変だったのでは? 

田中:大工の電子化を提案した時は、大工さんは高齢でスマホも普及していないと、社内でも否定的な声がありました。でも、ガラケーサポートが終了していくタイミングだったことと、高齢者のスマホ普及率も上がっている世の中の調査データも出ていたので、実際のところどうなのか調べて見ようと。100現場ぐらい回っていろいろな方にお話を聞きました。

足を動かすことは好きなので、全く面識のない現場監督にいきなり電話してアポイントを取って。逆に、全く違う業界に飛び込んだからこそ、「何もわからないので教えてください」という姿勢で現場の方の声を聞いて学べましたし、皆さんの本音も引き出せたのかなと思いますね。

──行動力もすごいですね。ユーザーの皆さんの反応はいかがですか?

田中:大工さんは既に98%ぐらい電子化に移行できています。パートナーさんに便利さを感じて使っていただいているのかなと、口コミを見ながら振り返っています。「常識を疑うこと」を実践してみたらハマった感じです。めげずにチャレンジして良かったと思います(笑)

大工さんやパートナー会社さんの確定申告のタイミングに間に合うように、1年分の請求書をボタン1つでPDF出力できる機能を追加しました。「書類が手元になくても、コンビニでパッと印刷できて便利ですよ」と話したら、とても喜んでもらえました。

──さらに進めている計画や今後の展望などについて教えてください。

田中:最近では『Architect Jump』の発展版として、お客様の内覧(住宅の完成後に行う検査)をよりスムーズに行えるアプリを稼働させました。

お客様から指摘された傷や不具合などの写真と補修後の写真をお渡しし、お客様の署名までいただける環境になっていて、内覧報告書もたったの数秒で作成できます。スピード感がありますし、きちんとエビデンスを残して担保することで、お客様に会社としての誠実さも提供できると思っています。

──『Architect Jump』の最終目標である「平均工期の10日削減」の進捗度はいかがですか?

田中:正直なところ、あまり進んでいません。原因は工程の精査やパートナーさんとの日程調整の甘さにあり、事務所に帰ってから日程調整をする現場監督が多いため、アプリではカバーしきれなかったのです。

そこで、次のソリューションとしてWEB版を準備中です。アプリは多機能ですが、逆にWEBはシンプルに、トップページですべての状況を把握できるようにしたいと考えています。

例えば、遅延している工程をアラームで気づかせる、ToDoリストで漏れをなくす、など。あとは工程表を見ていつどの現場に行くか予定が入れられる仕組みにすれば、より適切なタイミングで効率よく現場を巡回できるようになると思うんです。

また、会社規模が拡大して新卒メンバーも増えているので、マネージャーがその予定を確認して指導や教育にも繋げられるのではないかと。このシステムでそういった補助ができたらなといいなと思っています。

案件規模じゃない。ゼロベースから企画や開発ができるチャレンジングな環境

──スキルも仕事量も非常にレベルが高いと感じますが、前職でも同じような業務を担当されていたのでしょうか。

田中:アプリ開発には携わっていましたが、私はまだ社会人6年目。ですから、そこまで経験があったわけではありません。

『Architect Jump』では、ゼロベースから企画してシステムの要件定義や基本設計、外部ベンダーとのやり取り、進行管理、ユーザー説明会のMCまで1人でやりましたが、最初は全然うまくできず、勉強し実践しながら覚えてきました。

前職ではシステム目線でしか考えていなかったのですが、この会社で「ユーザー目線の大切さ」に気づきましたし、会社全体や市場全体を見渡してどう差別化していくのか、自社でアプリを作るメリットがあるのか、何をソリューションとして提供すれば自分の価値が顕在化するのかなど、かなり考えさせられました。その中で自然と視座も上がったと思います。

──プロジェクトマネージャーのような立場ですね。

田中:そうですね。何もわからないまま飛び込んだのはチャレンジングでしたし、しんどい部分もありましたが、自分から発信して行動して企画して、導入から現場の声まで聞ける環境はなかなかないと思います。転職のきっかけでもありますが、前職ではやりたいことがあっても在職年数が少ない、職制や組織が違うといった理由で提案すらできませんでした。

もう一つ面白いなと思ったのは、前職で担当したアプリの規模は十数億円、『Architect Jump』は数千万円。案件規模はかけ離れていますし、社会的影響力も違いますが、自分の意見が入れられる、自分発信で周りを動かす仕組みを作ることができる、という意味ではこちらのほうが、ずっと価値があると感じました。システム開発系の転職では、案件規模の大きい仕事をしたい人が多いと思いますが、「案件規模がすべてじゃない!」と言いたいですね。

もちろん厳しい言葉もいただきますが、その分、成長できる環境なので面白いし、やりがいがあります。

──なるほど。ゼロベースからやりたいことができる環境はレアですね。オープンハウス・アーキテクトのDX推進担当にフィットするのはどんなマインドを持った人だと思いますか?

田中:1つは素直さ。やはり人の話をきちんと聞けることが大切です。2つ目は目的思考。ヒアリングすると軸がブレやすいので、目的が何なのかを考えてブレないようにすることが重要です。3つ目は自責で考えること。私たちの仕事はオペレーションを変更する場合も多いですが、「現場がやってくれないからできない」ではなく、「どうしたらできるのか」を考えないと次のアクションにつながっていかないので、自分に矢印を向けるスタンスを持っていないと厳しいです。

最後は実際にユーザーの声を聞いて楽しいと思えるかどうか。私としてはこの点が一番大事で、この仕事に向いている人の特徴かなと思いますね。

──システム開発系の業務はどうしても長時間残業のイメージがありますが、その点はいかがでしょうか?

田中:確かに忙しい時もありますが、仕事の配分や自分の動きを自分で決めることができる点は大きいですね。私は時間ではなく成果で考えているので、その日の仕事が終われば定時で帰ります。プライベートと仕事の時間はちゃんとディバイドしているので、働きやすいです。

※インタビューの内容は取材時(2023年3月)のものです。